柿渋染め
ライン                    トップページヘ

 「太陽の染め」とも言われる
        「柿渋染め」を暮らしの中に取り込もう!
 

はじめに

 
 夏が過ぎ、少し涼しくなってくる秋、いろんなところで橙色の柿の実が見られます。
 それも約1,000品種もの柿が日本にはあるそうで、これらは甘柿と渋柿に大きく
 分けられます。渋柿をかじったことのある人は、あの渋みがお分かりでしょう。
 渋柿の渋さは、可溶性タンニンのためです。そのタンニンが舌の粘膜タンパク質を凝固
 させるために[ひきしぼる]ような渋さを感じさせるのです。
  現在、「柿渋」の知名度は非常に低いのですが、昔(中世以降らしい)は、生活に
 密着した素材だったようで、北海道、沖縄以外の農村・漁村の家の庭先で柿渋は作られ
 ていたと言われます。
  この防腐効果や、乾いて防水性を発揮する性質を生かして、様々に利用されていたの
 です。今では柿渋を身の回りで見るどころか、名前さえ聞くこともありませんが、近年、
 自然志向の高まりもあり、自然塗料としてクラフトなどに用いられ、見直されています。
 また、シックハウスの原因であるホルムアルデヒドを吸着する作用があることも実験に
 より証明されています。
 (以下化学的な解説の部分などは、各種文献・資料をもとにしています。)

1.柿渋の正体

 「渋」とは、一般にタンニン質の事を言い、未熟な果実や種子の中に多く含まれています。
 その代表的なものが柿渋で、他に茶の葉などにも含まれます。柿渋は、水分、糖分、柿タン
 ニンなどからなり、主成分である柿タンニンは、水の作用で縮合して高分子物質となる縮合
 型タンニンの一つです。
  用途にもよりますが一般的には、タンニンの含有量が多いほどよい柿渋とされています。
 (天王柿、鶴の子、法蓮坊など)

 ※タンニン…「植物界に広く分布する物質で、水に良く溶け、渋い味をもち、多数の
  フェノール性ヒドロキシル基(水酸基)をもつ芳香族化合物の総称。」(三省堂 
  化学小事典より)大きく分けて、加水分解型タンニンと縮合型タンニンとがあるようです。
  加水分解型タンニンの代表例として皮のなめし剤として用いられる物があります。元々
  「タンニン」という呼び方は、「タンニン活性」というある特性を持つ物質につけられた
  もので、最近では、正式(専門的?)な呼び名としてはあまり使われないようです。
  化学構造的には、ポリフェノール化合物の一種ということになるようです。


2.製造方法

  渋柿の中でも最も渋みの強い品種(天王柿など)を使います。青柿を最も渋みの強い時期
 (8月中旬〜下旬)に採集し、砕いて絞ります。その汁を自然発酵させると、澱(おり)が
 沈澱し、上澄み液が柿渋となります。これを1年から3年以上ねかせ熟成してつくられますが、
 古いものほど良いとされます。通常、化学薬品などの添加物は加えません。


3.用途

  柿渋は、漆器の下地に塗られたり、漁民にとって高価だった漁網の強度向上のための網染め
 染料、酒づくりの際の酒袋の補強・染色材などの用途や、団扇・和傘に塗られるなどに使われ
 てきました。また、中風、高血圧の民間療法の薬としての面もあったようです。伊勢型紙の
 地紙製造の材料としてや、紙衣に塗られるなど、和紙の強化にも使われました。地方によっては、
 砥粉(とのこ)と混ぜて家屋の柱に塗ることもあるようです。
 近年では、日本酒製造の際の清澄剤などの特殊用途以外はほとんど使われなくなっていましたが、
 その独特な風合い・発色を生かして布地の染色や、自然素材の塗料として最近見直されるように
 なりました。酒袋の独特の色合いを好んで、バッグなどに再生されたりもしています。
 変わったところでは、化粧品の材料としてや、消臭剤などとして用いられます。


4.特徴

  柿渋には、防水・防腐効果や、塗布物の繊維質に吸収され乾燥後に不溶性物質をつくり、収斂性
 (しゅうれんせい:引き締める性質)を発揮します。
 伊勢型紙の地紙(渋紙)用には、主に和紙を張り合わせる接着剤としてとその強度を増すために使
 われてきました。渋紙の出来・不出来は、柿渋の品質によるとまで言われます。また、塗布(乾燥)
 直後の色は、ごく薄いものですが、光にあてるほど、また時間とともに濃い茶色に発色します。


5.取り扱い上の注意

(保存)
  蓋のできる容器に入れ、温度差の少ない冷暗所に置いて下さい。注意点は、長期保存の際、凝固
 しないようにする事です。ゼリー状(寒天状)になってしまったら元に戻らないので、時折様子を
 見て、粘度が高くなっていたら、軟水(汲み置き水でもよい)を加えて良く混ぜてください。
 硬水(水道水)では、馴染み難いのでよくありません。特に季節の変わり目に凝固し易いようです。
 一般的に低粘度のものは、凝固しにくいです。

(塗布)
  柿渋を塗布する対象として、布(糸)、木材、和紙などによく使われます。

  
木材に塗布する場合、最初から厚塗りをすると剥離し易いので、薄めの柿渋で数回に分けて塗布
 ・乾燥を繰り返す方が、塗りムラが少なくなり、発色なども良いようです。刷毛を使って塗ったり、
 布地で雑巾がけのようにして擦り込みます。
 刷毛で塗る場合も、塗りムラや、柿渋がたれるのを防ぐために、布を併用すると便利です。また、
 塗ってはいけない場所には、予め、マスキングをしましょう。木材には、一回目は、粘度の低い
 ものを塗って良く染み込ませ、二回目以降に少し濃いめのものを使ってもよいです。しかし、
 初めてお使いの方は、一回目の塗布・乾燥の後、時間を置いて、発色を見てから、二回目以降塗り
 重ねするか、決めましょう。一回でも結構濃く発色します。1リットルで10平米位塗れます。
 2から3回ほど塗布と自然乾燥(4,5時間程度)を繰り返します。木材の木目が透けて見えるの
 も魅力です。

  
柿渋を薄めたい場合は、軟水(水道水の汲み置き)を使います。水道水そのままでも良いようで
 すが、井戸水など鉱物が混ざっている水は、良くありません。

  
布の柿渋染めの場合、生地にのりが着いている時は、事前に中性洗剤で洗うなどして、のり抜き
 をします。これをしないと、後で色落ちの原因になります。柿渋に浸して染めます。よく絞って、
 陰干し乾燥後に、天日干ししますが、日に当てるほど発色が濃くなります。
 これも発色の具合により染色と乾燥を何回か繰り返します。ただし、天日干し後も1年間は月日の
 経過と共にかなり色が濃くなるので注意が必要です。布地の染色の場合、乾燥後に風合いが硬く
 なりますが、洗濯機などにかけて柔らかくします。また、布地の場合、木材などよりも染めムラが出
 やすいので、均一に浸るよう、注意が必要です。

  
和紙の場合は、柿渋に浸すか、刷毛で塗り重ねて染めます。浸す場合は、後でよく水分をとります
(ペーパータオルなどに挟んで)。そうしないと和紙が水分を含んで弱くなり、破れるものもあります。
 板などに張り付けて、刷毛などで染めても良いようです。あとは、天日乾燥です。

(臭い)
  柿渋には異臭がありますが、乾燥後時間が経つにつれ臭わなくなります。自然素材の臭いだと思えば、
 気にならないと仰る方もおられますが染色の場合、数日間天日にさらしたり、薬品を用いて、臭いをとる
 ようです。最近では、精製により無臭の柿渋も作られているようです。

(作業)
  衣服に付着すると後から発色し、取れないので気を付けて下さい。汚れても良い衣服やゴム手袋を使用
 して下さい。使った道具・容器もすぐに水洗いして下さい。
 また、柿渋は鉄分に触れると変色する(青または黒く)ので、注意が必要です。


《関連メモ》

甘柿と渋柿
 
  
  柿の渋みは、果肉に含まれる水に可溶性のタンニン(以下「可溶性タンニン」といいます。)による
 もので甘柿、渋柿とも幼果期は渋みがあります。

  甘柿は果実が成熟する過程で、可溶性タンニンが不溶性になり、舌に感じなくなるのです。甘柿の果肉
 にみられる黒い斑点(ゴマと呼ばれます)は、可溶性タンニンが不溶性になった後、酸化したものです。
 甘柿には種子ができるとその周りにゴマができて渋くなくなるもの(不完全甘柿)と、種子の有無や数に関
 わらず渋みがなくなるもの(完全甘柿)があります。
  一方、渋柿は成熟しても可溶性タンニンを含むため、これを不溶性に変えなければなりません。
 このため渋抜きという操作が行われます。

渋柿の渋抜き

  渋抜きには炭酸ガスやアルコールなどが用いられます。これらを加えて密封すると、酸素不足のため
 正常な呼吸ができなくなり、この際発生するアルデヒド等の影響で、可溶性タンニンが不溶性に変わり
 渋くなくなります。
  家庭で行う場合には、密閉できる容器の中に柿を入れ、35度程度のアルコールを噴霧して密閉し、1週間
 程度待つという方法もあります。また、干し柿にしても渋くなくなります。


                                                  トップページヘ