本棚の本があふれてきて、最近ではうちのカミさんが
「もういいかげんにしてよ!」とおかんむりですが、まあ、どこの宿六亭主でも
一つや二つは道楽があってしかるべき。で、99年度best10のノミネートです。
1.3000年の密室
2.癌の歴史
3.黒い家
4.致死性ソフトウェア
5.落語DE枝雀
6.Visual Basic 6.0
7.トンデモノストラ本の世界
8.なぜビッグバンは起こったか
9.常温核融合スキャンダル
10.タナトノート
1.3000年の密室 (柄刀 一著 原書房 1600円)![]()
長野県の山中から3000年前の氷付けの縄文人のミイラが発見されるところから話は始まる。ヨーロッパのアルプス山中で600年前のミイラが見つかりアイスマンと名づけられた最近の考古学界のトピックスをモチーフにしたミステリーである。途中で余分な殺人事件が挿入されるのが悔やまれる。日本の出版界の頭の悪さがこうしたところにも読み取れるが、力のある新人が面白い小説を出そうとする際にとにもかくにも「○○殺人事件」にしないと、出版に門戸を開かない。(いやもしかすると○○殺人事件でなければその本を手に取らないというアンポンチンばかりしか日本にはいないのかな?)
考古学には謎が多くて、いいですね。私も小学生の時には考古学者になってあっちこっちの古墳を掘り返したいという夢を持っていました。この本はラストがいい。縄文時代からみんながんばっていたんだ!ってなんかエールを送られるようないい味わいでラストシーンを迎えます。こんなのを良質の脚本で映画化してみたらどんな風になるのかなあ。
2.癌の歴史 (ピエール・ダルモン 新評論 6000円)![]()

癌と言う病名を患者さんに伝えるのには、毎日細心の注意を払っています。私は原則として患者さんには全てを伝えながら日々の治療をしています。しかし想うのですが、癌という病気は有史以来人間とともに存在してきたわけで、癌をわずらい、癌に苦しみ、癌で死んでいった人々は何千年もの昔から連綿とあったわけです。昔の人はどのような治療を受けどのように死んでいったのか?それを知ることで、我々は少しでも孤独と絶望から癒されるでしょう。人間の英知が全能であるかの錯覚を持ちながら日々を過ごしてしまっている現代人は、直らない病気と避けがたい死に直面したときに、初めて命の有限性を知るのです。悲しいことに大勢の人はただパニックとなるだけで死を迎えます。自分の命をもう一度反芻し、「これでよし」と納得して死にたいものです。年寄りが死ななければ子供が成長してゆくスペースは空きません。あたりまえと言えばあたりまえのことを我々はあまりにタブー視しすぎているように思います。私も死にます。あなたもいつか死にます。そんな私たちのための1冊です。医者も知らなかった癌の歴史がここにあります。
3.黒い家 (貴志祐介 角川ホラー文庫 680円)![]()

角川ホラー文庫はすばらしい品揃えです。鈴木光司のリング、らせんも収録されていますし、瀬名秀明のパラサイト・イブも入っています。しかし今年99年の収穫は貴志祐介との出会いでした。
この「黒い家」は生命保険の調査員が査定の段階で、稚拙な保険金殺人のケースを調査するところから始まる。こんな馬鹿なことをしてとおもっていると、どんどん恐ろしい闇の奥に引き込まれてゆく。実は私も職業柄、生命保険の入院給付金の証明書をしょっちゅう書かされていますが、幻暈のするような話に事欠かない。「もう少し保険金が出るように病名を変えてください。」とか「入院期間が1ヶ月を超えるように日付だけ変えてください。」とか言ってくる人はしょっちゅう。「そんな証明書は病院から出せませんよ」と断ることもたびたびです。でも、もしこの「黒い家」の主人公のような人が私にそう言って来たのだったら。断れば私も殺されるのでしょう。(・・;)
貴志祐介のほかの作品もすばらしい。「13番目の人格-isola-」も渋い作品です。乖離性同一障害のある部分の闇を描き出していて、ユングの主張なんかもそこには入っている。もちろん医学的な事実ではありませんから誤解の無いように。それとアメリカなんかで発表したら「患者の人権をなんと心得るか!」なんて叱られそうな疾病の誤解も少しありそうですけれど。(でも貴志祐介の解釈のほうが正しい可能性もあるんですが。)
4.致死性ソフトウェア (グレアム・ワトキンス 新潮文庫 上下各629円)![]()

原因不明の奇病が、救急センターに多発するところから話はスタート。かっこいい内科医が、精力的に患者背景を洗い出してゆくところから、徐々にコンピュータ作業の中に病因があることを突き止めてゆく。この物語で、いいなあと思うのは、病院内のスタッフがみんな賢いこと。わけのわからない病気を見たときになりふりかまわず、その原因究明に全知全能を傾けているところ。さらに病院内にコンピュータセクションがあって、そこの疫学部のドクターが地域における発生状況とか病因の候補の多変量解析とかを内科医の依頼に合わせてビシバシとやっているところ。
日本の病院にはこんな能力はありません。
でも、この物語に出てくる「ペナルティメート」みたいなソフトウェアはもう既に存在します。
言わずと知れた「WINDOWS98」
WIN98でインターネット接続しているとなんか知らないけれどしょっちゅうアップデートのダウンロードメッセージが出て、あれよあれよと言っているうちに私のマシンのWINDOWSディレクトリはわけのわからないDLLで4.3Gbにまで膨れ上がっています。(なんでこんなことになったのだろう?)
5.落語DE枝雀 (桂 枝雀 ちくま文庫 650円)![]()

私が大好きだった落語家「桂枝雀師匠」が今年自殺しました。理由は何だったのでしょうか?彼は天才でした。彼の落語の破天荒さはすべて緻密な計算に裏打ちされていました。かつて聞いた高座で、本編に入る前の前振りで彼は45億年の昔から如何に生物が進化してきたかを身振り手振りよろしく「ステゴザウルスがこんなんなって」「アンモナイトがどっぼーんちゅうて」「アウストラロピテクスがこないしてヌボーって寝取りまして」と30分にわたって熱演したのが心に残ります。彼が自殺したのは分からないでもない。彼は時代を100年先んじていたから、若かりし頃は頓狂な芸風とされていたものを「おまえも年なんやから、もうちいっと落ち着いた芸を」なんていわれると、自分の天才性が回りに何ら理解されていないことに愕然と気づいたのではなかろうか。彼の話の中で大好きだった「鷺取り」「寝床」「雨乞い源平」などが収録され、かつ彼の笑いの理論「緊張と緩和」が語られているこの本を、桂枝雀師匠の冥福を祈りつつここに掲載させていただきます。
6.Visual Basic 6.0 (Microsoft )![]()

ソフトウェアをこうした書評のコーナーに入れていっしょにしゃべってしまうと言うところに私のソフトウェアとか本に対する一元的な思い入れを感じていただければ幸いです。で、Visual
Basicです。なぜこんなものをいつまでもMicrosoftが一生懸命作っているのかというところに、私はBill
Gatesの小児的なところというか男のロマンというか、いつまでも青春の残滓を引きずっている未練のようなものを感じて、Gatesもそんなに悪いやつではないんじゃないかなあなどとつい思ってしまうのです。さて、そのVBですが、VB2.0の頃からお付き合いあしていますが、だんだん面白くなっています。VBAとの相性もよくなってきて、ExcelやAccess上で組んでいたマクロを全面的にVBに乗せかえる作業ができるようになってきました。もっとプログラムにはまっている人はCでなければと思うのでしょうが、40過ぎてからのCはつらい。とりあえずVBでだいたいできそうです。(それにしてもactiveXのバージョンアップの早さにもついていけないなあ。おかげでDLLに囲まれ放題。HDもパンクしそうで、困ったことです。
7.トンデモノストラダムス本の世界 (宝島社文庫 667円)![]()

と学会には大変お世話になっております。会長山本弘先生にはこの場を借りて厚く御礼申し上げます。で、ノストラダムスでございます。皆様方には1999年7の月をどのような思いでお迎えになられましたのでございましょうか?ウド鈴木は「僕は信じてるんだ」なんて女の子にデートで告白しちゃったりしてうちのカミさんの悪罵をTV越しに受けておられましたが、私もせめてなんぞチョコット位は「ああ、あのことだったのかいな」くらいのイヴェントが欲しいな、そうでないとちょっと面白くないぞよ程度には期待していました。で、やっぱり現実は面白くないのでありまして、予想通り何にも起きませんでした。思えば私が中学1年生のある日にあの「大予言」っていう本がベストセラーなんかになりまして、うちの亡父がそれを買ってきて「えらいこっちゃなあ。ヒットラーもフォルクスワーゲンもフランス革命も全部あたっとるよ。1999年には世界は滅亡するんだなあ。その頃オレは70歳か。ほんならまあいいわ。」
とのたまわりました。オヤジは70歳でもその時オレは40歳だぜ。勘弁してくれよ!と中坊のタリナイ脳みそで私は大変心配いたしまして、高木彬光の「ノストラダムスの秘密」だとかロバーツの直訳本だとか当時手に入る資料をいっぱい買い集めて五島勉の解釈と対比させるなんてことをやってみましたところ、「こりゃなんとでも解釈できるんだわい。」と納得しました。世の中にはこの手のデマが発生したときに、三種類の対応の仕方があるのだということもこの頃感じました。すなわち
1.まるまる無視する。(人口の80%)
2.まるまる信じる (人口の15%)
3.いろいろ調べてみる(人口の5%)
で、自分が第三分類に属することも実感しました。でこの第三分類の人間は第一分類の人間から見ますと、第2分類の人間と同じ穴のムジナで、要するにアホです。で、第2分類の人間から見ましても、信じていない点では第一分類と同様「信者ではない」わけです。で、第三分類の人間は結局どちらからみても軽蔑すべき対象に過ぎないマイノリティです。野球も中日ファンで、全国的にはマイノリティですし、どーも私はどこまでいってもメジャーからは疎外されています。で、「と学会」です。この人たちも馬鹿です。バカ本相手にそれを骨の髄まで楽しんでいらっしゃいます。えらい。よくもここまで紙くず本を収集して徹底的に読み込んでいらっしゃいます。でも山本会長も時々言っていらっしゃいますけれど、この手のトンデモ本を本当だと信じて読んでいる読者がこの日本に存在するってことが今世紀最高のホラーだと思います。(私の知り合いにも幸福の科学にはまっているオジサンがいますが、彼は大川隆法の霊示を信じているのかなあ?)この1冊を通読するだけでウスバカ本を50冊くらいいっぺんに読めてしまうから、経済的にもとってもオトク。記念すべき1999年を飾る逸品と申せましょ
う。
8.なぜビッグバンは起こったか(アラン・H・グース 早川書房 3600円)![]()

理論物理学の楽しさというのは、150億光年のかなたまで、勝手に脳みその中で想像できて、しかも「タダ」というところにあると思います。J.P.ホーガンは、「創世記機械」の中で主人公に
「つらいときには、100億年後の氷の塊になった地球を頭に思い浮かべるんだ。」
という、至言とも言うべきせりふを述べさせていますが、このグースの著書も、充分そうした効果を私たちに与えてくれます。借金で首が回らなくなった人、偏差値で合否判定Dランクをつけられた人、勝負パンツを履いていったのにいきなりスカートといっしょに脱がされて、何ら意味をなさなかったお姉さん、子供が登校拒否になったおかあさん。女房にセックスを拒否されたお父さん。会社の必要経費で落ちると思った領収書を経理につき返された課長代理。かるーい健康診断のつもりで胃カメラ飲んだのに、来週家族と一緒に細胞の検査結果を聞きに来てくださいと若い研修医に告げられたお父さん、やっと下りた退職金の4500万円を小豆相場に投資しちゃったおじさん、そんな人たちにこの本をささげたい。宇宙なんて空間の歪みから出た粟粒がインフレーションしてぶわっと膨らんだ風船に過ぎなかったんですよ。

9.常温核融合スキャンダル(ガリー・トーブス 朝日新聞社 3200円)![]()
1989年のバブル崩壊以後の10年を「失われた10年」と呼ぶのが定着しつつあるようですけれど、思い返すと1989年ごろというのは楽しい時代でした。個人的にも大学での研究生活のスタートでしたし、自宅を新築しましたし、嫁さんは優しかったですし、子供はまだ5歳と3歳で「パパ!パパ!」と私の膝の上でじゃれてくれていました。で、科学会はといいますと、88年ごろに「常温超伝導」の話が出て「うわーっ!」と皆が乗ったところで「試験管で電気分解してたら核融合反応が起きた。」なんてニュースが飛び込んできて、「ほんまかいな」と言いつつも、もし本当だったら一気にエネルギー問題が解決しちゃうという感じで日本の企業も我も我もと参入する事態となりました。だいたいバブルのせいで、タバコ屋のおばあちゃんの土地が5億円で売れたとか、10万円で買った株が300万円になったとか、親がたんすの中に入れていたゴルフの会員権が4000万円で売れたとか言う話があっちにもこっちにも転がっていましたから、試験管の中で核融合が起きてもそれほど不思議じゃないかもねという土壌があったところに持ち上がった話ですから、もう期待がいやがうえにも高まっちゃって、ソニーも日立もはまったんじゃないかなあ。
で、それがまるまるウソとわかってからなんでそんなことにみんながバカ騒ぎしちゃったかという検証をした本なのです。科学には必ず仮説と実験と検証と理論化がおこなわれ、これによる知識体系の進歩が実現します。いわゆる「弁証法」っつうヤツに通じるんですけれど。で、科学の歴史の中ではごく日常的に起こる「仮説の誤り」に過ぎないのですが、「金儲け」がからむとこんなに大変なことになっちゃうという素晴らしい「症例提示」がされています。失われた10年を通じて私たちは多少は賢くなったのかしら?
10.タナトノート(ベルナール・ヴェルベール NHK出版 2524円)![]()

人をバカにした本というのもいろいろ読みましたけれど、これほど人をバカにした本にめぐり合うのも珍しい体験だと思います。だいたいフランス人のエスプリというものは、ちょっと身を引いて鼻先でフッフーン的な軽さを持っているんですけれど、死後の世界を探求してゆくお話の中でこれほど壮大にして軽いホラ話に出会えたわが身の幸せを実感させられます。「脳死移植」問題に端を発し、「終末期医療」「ターミナル・ケア」が医療の重要な課題となり、さらに立花隆が「臨死体験」を世に出して、医学を超えて哲学的、宗教学的に死後の世界への関心は高まっていると感じています。一方宗教亡きわが日本民族の死生観は21世紀を迎えても一向に深まる気配を見せず、あいも変わらず「不景気だ」「不良債権だ」「倒産だ」「今年も巨人が優勝だ」と言っております。で、タナトノートです。死後の世界への旅行をまるでスペースシャトルの宇宙旅行のように淡々と、噴出しそうに大まじめに、書き出してゆきます。最初から登場人物はすべてパラノイアっぽい連中ばかりです。で死後の世界への旅行が着実に成功を重ねてゆくにつれ、死後の世界の「領有権問題」が発生します。アメリカは国力を挙げて星条旗を死後の世界に打ちたてようとします。フランス大統領はどんな決断をするのか。ぜひご一読を。