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健康
           
がんのミニ解説(平成18年10月19日脱稿)
 
   毎年一回開かれるトヨタ同期の懇親会が10月19日に近くのホテルで開かれた。その前日に、今年の幹事から突然頼まれた『がんのミニ解説』を、海外旅行(10/1〜10/15)から帰国間もない時差ボケ頭で実施した。

   仲間は既にがん年齢に到達しているためか、予期せぬほどの熱心さで聴いてくれた。

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はじめに

   我が胃がんと食道がんの治療後、すでに三年半が恙(つつが)なく過ぎ去った。私の多くの知人や友人達は我が闘病の勝利を絶賛するだけではなく、次はわが身かとの不安にも襲われるのか、おりおりにがんに関する質問を向けるようになってきた。

   時には本人どころか身内や知人のがん治療の妥当性の質問すらも受けるようになった。私の提案で愛知県がんセンターへ転院した人も徐々に増えてきた。すべては我が主治医、胃がんの山村先生、食道がんの不破先生のご支援のおかげである。

   コーカサス3ヶ国からの我が帰国を待ちかねたようにして、相談を持ちかけた人が二人もいた。今回の講演メモは過去3年半のがんに関する我が勉強・資料収集の要約でもある。
   
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配布した講演メモ

[1] 統計データ⇒がんは遅行性の病気、潜伏期間15〜30年、知らぬが仏?

  発病率(50%)⇒死亡率(2/3)⇒がん死率(50%*2/3=1/3)、がん保険で保険会社は大儲け。

[2] 発病阻止⇒発病原因は加齢と無数の発がん物質⇒対策に決め手はない。

  禁煙・禁酒・食材選択などに腐心するよりも、ほどほどの健康な生活。我慢は最悪!!

[3] 検査⇒決め手はない⇒読影医師の診断能力に壁

  誤診率は40%⇒年2回の定期検査⇒誤診率の低下。1億個のがん細胞の塊があれば、やっと見つけられる。全身⇒PET/CT、特定部位⇒バリウム、CT、内視鏡、マーカー値、MRI、超音波、造影剤、マンモグラフィ、検便、触診。最後の判定は生検(準備に数日掛かる。病理医による細胞の顕微鏡検査)。

   がん細胞のがん化レベル=1(正常),2,3,4,5(がん)。ステージ(期)⇒がんの進行度。がんの種類によって表現法が異なる。胃がん⇒TA、TB、U、VA、VB、W。食道がん⇒0、T、U、V、W

[4] 治療⇒アガリクスなどの健康食品や民間代替療法は無駄。

  名医も藪医者も治療費は同額。外科手術、放射線照射、抗がん剤(副作用大。薬に非ず。殆どは僅かな延命効果。効果も直ぐ減衰する)。粒子(陽子、炭素イオン)線照射(がんの種類によっては画期的に効く)

[5] 末期 ⇒心身の痛み止め

  モルヒネの多用(80%のがんに有効)、緩和ケア(施設が未だ少ない)

[6] 治療後⇒完治したとの断言は困難。がん検診で誤診が多いのと同一理由。
 
  寛解(Response、精神病に由来)⇒完全寛解⇒完治

[7] 転移
 
  食道がん⇒肺がんへ転移しやすい、など原発がんと転移先とには関連があるが、転移先のがん細胞は原発がんのまま。我が食道がんと胃がんとは、がん細胞が異なっていたので独立に発生したと断定された。

[8] 胃がん⇒切り捨てるだけ。

  スキルス胃がんは発見困難。胃がんには抗がん剤も放射線照射も効果無し。100年前の独医師ビルロートの治療法提案のまま進歩なし。再発や多臓器転移⇒殆ど助からない。

[9] 食道がん⇒すい臓がんと並ぶ、死亡率の高さと外科手術の難しさでがんの横綱。

  外科手術か放射線照射。抗がん剤は気休め。私は放射線の副作用で連続嘔吐後遂に気絶した。

[10] 前立腺がん⇒外科手術⇒インポ率80%以上。

  陽子線照射(自己負担288.3万円)ならば一回の照射で殆ど治るそうだ。
  小線源療法(治療可能病院は未だ僅か)は2年前に許可された。インポ不安激減。

[11]死ぬ準備

  葬儀用の写真、金融資産リスト、死亡連絡先、死に顔作りの生前練習、葬儀屋の合見積もり、墓地手配、墓石・墓誌の設計図作り、仏間作り、仏壇調達、遺言状(私は不要)
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口頭での補足

[1] 皆さんの余命は後20年足らずですが、それまでには半分の方々はがんに遭遇します。がんの潜伏期間から逆算すれば既に小さながんが育っていると考えられます。今すぐ検診を受ける価値があります。

   同じ保険でもがん保険と自動車の任意保険は性格が異なります。がん保険は受け取り金額の上限が決まっていますが、人身事故には天井がありません。自動車事故に出会う確率は常に一定ですが、がんに罹る確率は徐々に高まるように変化します。

   がん保険を契約してがんに罹るまでには長い時間が必要になり、それまでに支払った保険料を取り返した人は10%と言われています。私の知人(トヨタ先輩・ゴルフとテニス仲間)は過去20年間に250万円も保険料を支払ったのにまだがんに罹っていないとこぼしていました。国民保険や高額医療費の補填還付制度もあるので、がん保険の価値は然してありませんね。

[3]   今脚光を浴びているPET/CTは万能ではありません。ブドウ糖が集まりやすい脳腫瘍・膀胱がん・尿管がん・腎臓がんだけではなく、胃がんの発見にも向いていません。しかし、全身を一度に検査できる特徴は捨てがたく、従来からある個別のがん検査法との併用が肝要です。私は食道がんから肺への転移を懸念しているためにPET/CTを、食道がんと胃がんの再発検査にルゴール染色法を伴う内視鏡検査を併用しています。

  がんに勝つ王道はどんな名医との出会いよりも、無自覚状態での早期発見・早期治療に尽きます。誤診率が依然として高いので、検診回数を増やすしか方法はありません。私は今でも年に2回検診を受けています。一年長生きすれば総ての検診費用は年金で支払ってもおつりが出ます。

[4]    日本の医療制度では名医も藪医者も同じ治療では患者の負担は同額ですが、結果的には異なります。藪医者は手術が下手なため回復に手間取り、入院期間が長くなり医療費が増加するだけではなく、患者の肉体的負担も増加します。何としてでも名医を探し出す価値があります。

   抗がん剤は抗がん『薬』ではありません。患者の体質との相性、がんの種類によっても選択肢が分かれます。抗がん剤で寛解するがんは殆ど無いばかりか、使っているうちに効き目が落ちるので、抗がん剤を変更しますが、最後には使える抗がん剤がなくなります。

   抗がん剤は大抵副作用も強く、頭髪だけではなく全身の毛がブロイラーのように抜け落ち、見るも無残な姿になることもあります。ある知人はゴルフ場などの大浴場に入るのが恥ずかしくて恥ずかしくてと、こぼしました。私は主治医と相談した結果、抗がん剤は一切使っていません。いわんやアガリクスなどの免疫力増加を強弁する健康食品は全く使っていません。

[5] 日本のがん治療ではモルヒネの使用量が欧米の数分の一です。モルヒネには習慣性があるとの医師の誤解が根底にあるばかりか、がん患者は痛みを我慢するのが当然だとのおかしな伝統もあります。モルヒネの効かないがんも20%くらいあるものの、苦しんで死ぬくらい馬鹿馬鹿しいことは無く、終末医療の立ち遅れは残念でなりません。私はモルヒネを浴びながら死ぬ覚悟です。

[8] 胃壁は5層の皮から構成され、内部の皮の間で成長するスキルス胃がんは内視鏡検査では見つからず、痛いなどの自覚症状後に発見された場合は大抵治療は間に合いません。テレビキャスターの逸見政孝さんは無駄な手術を受け、痛い目にあった上に死期を早めただけです。

[9]  食道がんが再発した場合、私には放射線照射治療法は最早使えません。被爆限界量まで既に放射線を浴びているからです。残された道は外科手術か陽子線照射治療です。外科手術を受けた同室の患者を見舞って驚愕しました。点滴などパイプが14本も体に取り付けられていました。

   食道がんが再発した場合は、国民保険は使えず治療費は高額(一律288.3万円)になるものの痛みの伴わない陽子線照射を選ぶ予定です。愛知県がんセンターには設備がないため、主治医が紹介状を書いてくれるそうです。

[10] 60歳代の患者は前立腺がんの手術を大変嫌がります。外科手術の80%はインポになるからです。しかし、愛知県がんセンターには待望の小線源療法の設備、静岡県がんセンターには陽子線照射設備が導入されました。これらを使えばインポになる確率は激減しました。

  70歳代の患者からはインポになることの不満はあまり聞きませんが・・・。

[11]  友人でもある住職が死に顔作りを薦めていました。生前(この日本語は奇妙です。生まれる前ではなく死ぬ前の意味なのに・・・)に嘘でもよいからにこやかな笑顔作りを練習してください。幸せそうな顔つきが形状記憶合金のように再現されるそうですよ!!!
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おわりに

   がんはどんなに注意深く生きていても、長生きをすればするほど確率的には避けがたい病気である。宮内庁が細心の注意を払って努力しても、皇族方はもちろんのこと、昭和天皇すらもがんを患われた。レーガン大統領も大腸がんに罹った。いわんや庶民に於いておや。

   がんは怖れず、侮らず。天賦の貴重な人生は命尽きるまで生きていることを満喫すると共に、検診の労と費用とを惜しまず、早期発見⇒名医探し⇒早期治療を心がけられることを、一がん患者の体験談として、賢人各位にご奉告致します。

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