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随想
           
振り込め詐欺未遂(平成20年5月31日脱稿)

   水土日はスポーツで外出。在宅日の月火・木金は晴耕(5〜9月は家庭菜園の管理に追われるが癒しのひと時)雨読(パソコン遊び)や休息。5月初旬のある日のんびりと自宅で過ごしていたら、電話のベルが鳴った。
   
   『石松でございます』『健一だけど昨日携帯電話機を落とした。新しい携帯を買ったので電話番号を連絡しておこうと思って・・・』。

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はじめに

   数年前にIP電話に変えたら電話代金は安くなったが、音質はNTTの固定電話よりも悪く、聴覚も衰えてきた古希直前の老人には話者の特定はやや困難になってきた。でも最初の一言で、愚息を名乗る偽電話だと瞬時に分かった。

   愚息からの電話は年間僅かに数回。『今晩、出張先で買ったお土産を届ける』などの単なる連絡電話だ。子供達3人は夫々携帯電話を持ってはいるが、私は過去10年間彼らの携帯に電話を掛けたことはない。緊急性のある要件が発生しなかったのも一因だが、単純な連絡は全て電子メールで済ませているからだ。電子メールは電話とは異なり何かをしている筈の相手の邪魔をしないから、連絡手段としてはベストだと思っている。

   私は過去数十年間、在職中も現在も電話での第一声は全て同じ形式『石松でございます』で通した。電話を掛けてきた人が誰か分からないし、上司・先輩・同僚・後輩・知人・友人・家族・無関係者・間違い電話など何人からであれ、失礼のない万人向けの電話の受け方と確信しているからだ。

   でも、この事務的で冷たく感じるらしい応対は、例えば荊妻の知人からの電話だった場合、大変不評のようだ。皆一瞬戸惑うらしく、次の言葉が滑らかには出てこないようだ。しかし、私にはこの形式を変えるつもりは、今後とも全くない。
   
   愚息からの電話の場合では我が応対の後、『健一ですけど・・・』と必ず自己を名乗った後で用件に入るのが常。親子ではあっても敬語(丁寧語)は欠かさない。IP電話での音質でも、愚息か他人かはこの最初の一言で、今回は判別できた。
  
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偽愚息

   自宅で退屈している時には、時間つぶしを兼ねて押し売り電話等の相手をすることもある。偽愚息との電話対談がどんな展開になるのか、と楽しみにしながら応対を続けた。

   私は今でも携帯電話機は持っていない。今後も買う気もない。携帯を持てば電話で友人や知人から追い回されるのは必至、と予想しているからだ。唯一のニーズは帰国時など自宅から2Kmも離れた名鉄豊田市駅に着いた時に、車での迎えを荊妻に頼む用件だけ。でも公衆電話が少なくなったとは言え、駅構内には未だあるので何ら不自由はしない。

『携帯電話機って幾らするのだ?』
『・・・・』。無言のまま。かつて固定からIP電話に変えても番号は変えずに済んだので
『携帯電話機を買ったら、番号が変わるのか?』と質問。
『・・・・』。またもや無言。
『さっきは声が少し変だったな』、と私。
『扁桃腺を痛めた』。質疑の想定マニュアルがあるのか、ごく自然に即応した。
『ちょっと聞き取れないけど、どなたでした?』
『・・・』。その直後に電話は切られた。

   電話を切られる直前の発言は失敗だった。偽愚息は自分が疑われていると勘付いたようだ。息子と完全に信じている振りをしながら会話を続ければ、もう少しは詐欺犯との会話が楽しめたのに・・・。

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振り込め詐欺

   長男夫妻が来宅した折に、この件を確認した。当然のことながら本人は携帯電話機を落としてはいなかったし、電話も掛けてはいなかった。でも、親子共々この偽愚息の意図を解明することは出来なかった。電話番号を教えても何かの役に立つとは思えなかったからだ。

   その後、テニス仲間との昼食時に以上の経緯を紹介した。その時である。トヨタ先輩の一人が『石松さん、その電話には続きがあるのですよ。友人から聞いた話ですが・・・』と言いながら、下記の事例を紹介してくれた。

『携帯は仕事でどうしても必要なのだが、給料日前で手持ちがなかった。そこで上司からお金を借りた。直ぐに返したいのでお金を振り込んで欲しい』と続くのだそうだ。

   この詐欺犯の計画には手品と似た一面がある。電話番号を伝えるとの趣旨の目的は、真の意図を隠すための導入プロセスに過ぎなかった。また、携帯電話機は高々数万円なので、普通の親だったら直ぐにでも振り込みそうな金額を意図的に選ぶので、詐欺の成功率は高そうだ。

   我が親子にはこの種の詐欺犯の立場で物事を推理する想像力に欠けていた。とは言え、仮に偽愚息に敬語表現で話しかけられ、私が完全に騙されていたとしても、何がしかのお金を振り込んで欲しいと言った瞬間に、幾ら鈍感な私でも詐欺と気づいた筈だ。

   34歳の愚息はトヨタ自動車の初級管理職、嫁は愛知県碧南市民病院の勤務医。持ち家を建てる予定もある上に、親譲りの質素な生活を堅持している愚息が、携帯電話機代が払えずに上司から借りる筈がない。
   
   更に、新型エンジンの実験評価部署で働くエンジニアである愚息には、外回りの営業マンとは異なり携帯電話機が業務上緊急に必要になる筈もない。それどころか、荊妻によれば勤務中は携帯の電源がいつも切られている、とぶつぶつ言っているし・・・。

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おわりに

   自宅でのんびり過ごしていると、頼みもしないのに様々な来客が押しかけてくる。ペンキ屋・リフォーム屋・新聞の拡販屋・新興宗教の勧誘屋・キリスト教なんとか派の勧誘屋・災害地への寄付強要屋・牛乳など酪農製品日配の勧誘屋・食材(素材または調理済み品)の日配屋・自動車の売り込み屋・家電製品の無料引き取り屋・消化器の薬剤取り替え屋・・・。

   一方、電話セールス業者も負けてはいない。マンション投資の売り込み屋・土地の売り込み屋・未公開株の売り込み屋・ゴルフの会員権の買取りや売り込み屋・各種会員名簿への個人広告掲載の募集屋・銀行や証券各社入り乱れての金融商品の売り込み屋・金などの商品取引の売り込み屋・・・。

   在宅中は、31年前に買った大型ステレオを昨春買った50インチのフルハイビジョンプラズマテレビに繋ぎ、楽録(ケーブルテレビ会社がレンタル供与している250GBの録画装置)に録画していたWOWOWの映画や世界遺産の紹介番組を、テレビ視聴用安楽椅子(日本一の家具メーカ、カリモクの製品を注文したら5週間も待たされた)に座って酒を飲みながら見ていることが多い。5.1チャンネル放送だと頭上や背後からも立体音響がダイナミックに響きわたり満足感も高い。

   そんなときに土足で進入してくる感のある無用な来客や電話ほど腹立たしいものはない。気分が乗らないときには素っ気なく対応するが、暇つぶしを兼ねてさも興味があるかのように振舞いながらの舌戦を楽しむこともある。

   生きるためとは言え、一所懸命に詐欺すれすれまでの努力をしている人達の真剣さには驚きつつも、最終的には『私には魅力がないけど、頑張ってね』で終り。商品を買ったり、取引を開始したりしたことは一度も無い。

   賢人各位、ご体験はありませんか?   

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読後感(読者への参考になる体験談等)

面白い体験報告有難うございました。世の中にはこの程度で詐欺被害を受ける方があるのか、もっと高度なテクニックを使うグループが新聞を賑わすでしょうか。

一方個人情報が煩い時に、ご子息との関係をどうして知ったのかも興味感じました。

日頃留守番する事多いのでセールスに会うこと貴兄に近いですが、相手も生きる為の仕事と思い応対に出るようにしていますが・・・。

近所で組の用件で訪問すると必ずインターホーン越の応対。これには何とも人間味の無い寂しさを感じ、何時も嫌な思いをしています。世の中が変わりそれに合わせていかなければいけないのか?。

@ トヨタ先輩・工・ゴルフ仲間・いつも素早く読後感を書かれる方


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詐欺師をからかう会話が直ぐに切れてしまって残念でした。石松さんをターゲットにしたのは間違いですね。新聞で振り込め詐欺の話が良く出ていますが、身近な所に起きるとは思いませんでした。こうゆう話を聞くと騙され易いと思っている荊妻が心配になります。

ご子息の名前と石松さんの自宅電話番号が何処かで漏れているのですね。最近はタイでも個人情報を気にする人がいますが。私は同窓会や色々な会に顔を出しているので個人情報は公開していますが。

3週間くらい前にタイの会社の同僚日本人が常滑の自宅に居る父親と電話していたら、同僚が借金をしたのでお金を振り込んでくれと言われていたようで、それは振り込め詐欺だから警察に届けなさいと言って電話を切ろうとしたら、じゃ今から銀行に行くと言われて再度詐欺だからと説得していました。

騙す方はプロですが本当に騙され易い老人が増えていると実感しました。

A トヨタ後輩・工・再々就職先は自分で開拓しタイで単身頑張っている方


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振り込め詐欺顛末記拝見しました。

敵も次から次に新しい手を使ってきますね。でも貴宅にしかけてくるとはとんでもない輩ですね。

拙宅にも様々な勧誘の電話があります。最近では同郷を名乗る人からの未公開株の優先案内があり値上がり必至との事で、言葉巧みに購入を仕掛けてきました。

彼らは受話器を取るなり一様に上ずった声で口早に話しかけてきて瞬時に看破可能です。親しげで言葉巧みでなかなか電話を切らしてくれません。私は応答に腹立たしくなり "一切興味なし"と早々にぶち切ることにしています。

こんな類の話には十分注意しています。

B 高校同期・役員引退後韓国語をマスター・ドライバーは今尚200ヤード以上

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まだ当宅へは振込め詐欺の電話は架かってきてないですが、自宅に居るとさまざまな勧誘が電話や訪問で有りうっとうしい限りです。

電話で暇つぶしに相手をするのも良いですが、話をいろいろとして断ると向こうから嫌がらせみたいに、がちゃんと電話を切られ気分悪いから、最近は勧誘電話が架かってきたら、初めから断りこちらから切るようにしています。玄関勧誘はインターホンですべて断り面会謝絶です。
 
最近は蟹を宅急便(クール便)で送りつけてきて、受け取ってしまうと法外なお金の請求が来るとのこと、その場で宅配者へ持ち帰ってもらわないと大変なことになるようです。家族が申し込んだと思って受け取ると大変です。ご注意ください。

C 中小企業の経営指導で東奔西走中

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先日、私の外出中にわが家に間の抜けた電話がかかってきました。
 
電話先の男。「もしもし、こちら〇〇バスですが。今ね、お宅のご主人の車がうちの路線バスと接触事故を起こしましてね・・・・」。

家内。「あら変ですね。主人は今家にいますが。お父さん〜電話ですよ」、と咄嗟に返事。

電話先の男。「(おい!旦那は家に居って言いよるバイ)」とささやく声。そしてその後、ぷつんと電話は切れた由。

D 大学教養部級友・工・ご母堂の介護のため生家に長期滞在中

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HP拝見しました。MRJの件は別途、その前に振り込め詐欺の件で。

まだ、私自身は振り込め詐欺の電話を受けたことがありませんのでどのように応対するかわかりませんが・・。身近に起きたことで、考えさせられました。

岳父ですが、75歳ころまで、会社の役員をしていました。沈着冷静、想像力豊か、気配りも利き、話術も巧みで、話がうまいと言うことは頭の回転もいいんだろうなと、感心していました。結婚の頃は、娘よりも父親に惚れて結婚を決めたような感じでした。

その岳父が80歳のころ、電話がかかってきたのです。まだかくしゃくとしていまして、私も訪問すると、話では私を圧倒するほどでした。私は、渋谷の街角を急いで歩いていたときでしたので、てきぱきと応答しました。

「○○(愚息の名)から今電話がかかって来た。交通事故を起こして、現場からだ、と。事故処理の金が至急必要だが、持ち合わせが無いので、5万円を振り込んで欲しい、と」
「それで?」
「お前はいつもお父さんと相談してるようだから、お父さんへ電話したらどうだ、と言ってやった」
「私には、まだ電話がありませんけど・・」
「困ってるようだから、電話してやってくれ」
「承知しました。話し合って、処理します。お父さんはこれ以上動かないでください」
「判った。頼む」で、電話は切れました。

私は、交通事故にはバックに何が有るかわからないと考える性質で、暴力団が絡んでいたら金を振り込むのは油に火を注ぐ、状況をしっかりと把握するのが先と思ってますので、東京から帰って愚息と話し合うことに決めました。

帰宅しても愚息から話がありません。問うと、何のこと?と言う返事。で、振り込め詐欺ということになりました。そこで、岳父へ電話して、詐欺のようだから、放っときます、と告げました。

その後、1週間ほどして、用事で訪問すると「○○の件の処理はどうなった?」との質問。改めて、振り込め詐欺の疑いをきちんと説明する羽目になりました。元気な時の岳父の判断力を知る私には、このときの驚きは大変なものでした。詐欺師の一撃、インプットパワーのすさまじさを、つくづく感じ入りました。

今回は、たまたま私の家族の状況を岳父が良く観察していて、処理を家族に任せるべきと判断してくれて、被害を避けることが出来ましたが・・。

今、私は自分が最後まで詐欺にかからないとは、確信を持てない状況にあります。人間、変わるんですねエ。

E トヨタ&大学後輩・工。技術士の資格を取り東奔西走しながら活躍中

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