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随想
           
節水トイレの盲点(平成21年2月28日脱稿)

   34年前の昭和49年12月7日に新築移転後昨年までの間、トイレの配管が詰まったのはたったの2回。それもトイレ用のスポイドゴムで簡単に解決した。

   その後、20年以上も前に松下電器製温水トイレを古い便器に後付した。更に6年前には、待望久しかった公共下水道管に直結した。

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はじめに

   温水トイレの蓋開閉用のプラスティックス製蝶番が破損したのを機会に、平成20年11月初旬、TOTOの節水トイレに一新した。工事は家周りの日曜大工的な保守管理を気楽に頼んでいる拙宅近くの建設業の梅村元社長に頼んだ。

   梅村氏は社長業を長男に譲られ引退されてはいるものの、住宅建設関係者との付き合いが長く、襖屋・畳屋をはじめ知り合いの職人も多い。私との付き合いは20年以上にもなり、今では持ち家に関する家庭医のような得がたい存在だ。

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工事

   トイレのカタログを集めたが、分厚くて読み比べるのも大変。梅村氏に最近の売れ筋を選んで貰ったついでに、知り合いの業者も紹介して貰った。便器の交換作業はいとも簡単だった。トイレ周りの部品の標準化は我が予想以上に進展していたのだ。この機会にトイレ室の内装も一新したが、たったの一日で完了した。

   新型ハイテク・シャワートイレのリモコンには操作ボタンが15個も付いていたが、各種条件を一度設定した後は変更するニーズもなく、暫くはその快適さに満足していた。

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配管が詰まった

   ところが、節水トイレと交換した僅か2ヶ月後の平成21年1月初め、配水管に汚物が突然詰まり汚水が流れなくなった。近くのホームセンターでトイレ用のスポイドゴムを買い、汚水を流すべく排水口に向って数回圧力を掛けたが全く流せなかった。しかし、スポイドの操作を何度も繰り返せば詰まった汚水は、いつかは流せる筈だと確信しながら根気よく100回くらい繰り返したら突然流れ始め、一件落着かと一安心した。

節水トイレとスポイドゴム

   しかし、それも束の間のことだった。数日後にまたもや汚水が詰まり、スポイドゴムの往復運動をまたもや約100回。以後、数日間隔で汚水詰まりが発生した。

   私は1月19日から2月4日まで中米7ヶ国旅行に出かけた。その間、荊妻は一人暮らしの88歳の実母のお見舞いを兼ねて福岡市の実家に帰省。トイレの使用者がいない間に配管内の汚物は乾燥して硬くなり、簡単には溶融しなくなっていたのか、この目詰まり現象は帰国後は直ぐに再発した。下水管は何ら変更していないので、原因はその間に変化したもの、つまりは節水トイレにあると断定せざるを得なかった。

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取り付け業者との論争

   梅村氏に『節水トイレが繰り返し詰まるようになった。見に来て下さい』と電話したら『工事業者に見に行かせます』との即答を得た。

   工事業者からの問い合わせの電話に対し現状を説明した。業者は『次回、詰まったら配管周りの蓋を開けてどうなっているか確認して連絡して欲しい。新品の便器に異常がある筈がない。原因は配管だ』と、現場を見もせずに断言した。

   私は根拠を示さずに結論を押し付け、更には依頼者である私に配管を点検しろ、などと逆指示する業者に対しては強い不快感を抑えきれなかった。トイレと配管を一つのシステムと考えれば、どこかで徐々に詰まり始めそこが臨界点に達すると、汚水が流れなくなると私は推定していた。従って現物を何時見てもプロならばその原因は即座に分かる筈だと思ったが、言い争いをするほどのことでもないし、過去の現象から直ぐに再発すると予想して、取り敢えずは業者の要望通り次回の目詰まりを待つことにした。

   数日後に目詰まりが正しく予想通り発生した。即座に業者に連絡したら翌日の2月19日に営業担当が職人を連れて来宅。便器の撤去 ⇒ 汚物の除去 ⇒ 便器の取り付け作業は約2時間で完了した。

   業者は『トイレ本体には何の異常もありません。配管内の汚物は除去しました。後で保守費用の請求書をお届けします』と言った。
   
   私は『この仕事は梅村さんと契約しているので請求書は梅村さんにご提出下さい。しかし、根拠の説明がないあなたの結論は、元エンジニアとしての私の体験からは信じることは出来ません。過去34年間にわたり配管に異常は発生していません。従って疑わしいのはその間に変わった条件、つまりトイレ本体にあります。それも水量不足ではないかと想像しています。再度目詰まりが発生したら、欠陥商品と見なしトイレ本体の無償交換を要求します。そのときの請求書はTOTOに出してください』と返答した。
   
   業者は尚も『我々が設置したトイレで、本体に問題があった例はない』と主張した。
   
   『明日(2月20日)の金曜日は愛知県がんセンターでがんの精密検査を予定しています。過去の体験からはがんの検査が終わった後の意識は朦朧、足はフラフラになり車の運転すらも出来ません。そのため来週まで待ってTOTOの担当者に質問してみます。今日はとりあえずお引取り下さい。
   
   尚、貴方の結論を聞くだけでは目詰まりの原因は全く理解できないので、何故トイレに異常がないと断言できるのかの論理的な説明を書面に書いて回答して下さい。また、更に何か言い分があれば梅村さんを通じてご連絡下さい』と言い放って、お引取り願った。
   
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インターネットでの調査

   2月21日の土曜日、インターネットで節水トイレの諸問題を検索した。節水トイレが売り出される以前からのトイレの問題も出てきた。

   昭和48年10月に始まったエネルギー危機以降、トイレのタンクにレンガを入れて節水する、との提案が話題になったことも思い出した。この頃のタンクへの給水栓の入切には浮きを使っていた。レンガを沈めてもタンクの水面の高さは同じなので、レンガの体積分だけ節水されていたのは明白である。しかし、レンガを入れ過ぎて水量が不足した結果、下水管が詰まったとの失敗談も出てきた。

   かつて流体力学や水力学を齧っていた私には、インターネットの記事を読むまでも無く節水型のトイレの配管詰まりの主因は、水圧(主として動圧)を発生させる水流の速さ不足だけではなく、水量不足にも原因がある筈と確信し始めた。メーカは商品開発では汚物の種類を変えて実験を十分繰り返した筈だが、それでも課題は残っていたのだろうか?

   更に私は我が家のトイレの場合の配管詰まりの主因は、水流の速さ不足よりも水量不足が主因だろうと更に推論を進めていた。夫婦二人だけの生活なので、トイレの合計使用回数はかつての親子5人時代に比べ半減していた筈だからだ。

   汚物の一部が配管に粘着したまま長い時間放置されれば、乾燥して硬く固着することは明白だ。汚物が固着した後にトイレを使った場合、水が固化した汚物を軟らかくして流し去る時間が不足し、固化した汚物に新しい汚物が癒着し、汚物は徐々に厚みを増し、遂に配管閉鎖に辿り着いたと推定したのだ。
 
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TOTOとの折衝

   2月23日9:00にTOTOへ電話した。最初に現れた女性は単なる電話番に過ぎなかったので、事情通のエンジニアに代わらせた。故障の現状を話した。連絡先として住所も電話番号も伝えた。
   
   釈迦に説法とは承知していたが『業者から受け取っていた取り扱い説明書を紛失したので詳細なことが分かりません。そこでトイレのタンクの蓋を開けて中を覗いたら、大変複雑な機構が水の中に沈めてありました。私のエンジニアとしての直感に過ぎませんが、あの機構で給水量の増減が出来るのではありませんか? 今は6リットルだそうですが、水量をもっと増やせるのではありませんか?』
   
   『8リットルに変更できますが、とりあえずサービス会社の最寄の支店から保守員を伺わせます』との即答。
   
   その日の午後、TOTOメンテナンス名古屋支店からサービスマンが来宅。原因は直ちに判明した。類似の設置ミスに何度も遭遇し、経験豊富になっていたのだろうか?
   
   『小の後に小用のボタンを押せば大用の水が流れ、大の後に大用のボタンを押せば小用の水が流れるように設定してありました。水槽の中のチェンが逆に繋いであったので付け替えました。初歩的な単なる取り付けミスです』
   
   『納得しました。サービス料はいくらですか?』
   『無料です。ご迷惑をお掛けしました。修理業者には私から報告いたします』
   
   その日の夕方、修理業者からお詫びの電話があって一件落着。

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おわりに

   得てして知らない世界の初体験では、プロらしき人への反論は精神的に気後れし勝ちである。しかし、がん治療を始めて6年が経過し5回も入院治療を受けた結果、トヨタ自動車という世界に冠たる企業力を盾にしながら世間と気楽に闘っていた現役時代と比較すると、精神的には格段に強くなったと自覚するようになった。

   不幸にして交通事故に出会えば加害者や保険会社の海千山千の示談屋、落雷事故に出会えばこれまた火災保険会社の示談屋、がんに掛かればベテラン医師と対決を迫られること等も、我が引退とは無関係にしばしば遭遇した。
   
   そのような時に臆することなく助太刀が無くとも、堂々と自己主張するにはそれなりの勇気が必要だ。しかし、不幸にしてがんに倒れて格闘した結果、世の中には死よりも怖いものは何もないと今更ながら繰り返し体験している間に、か弱い体力の代わりに頭脳が一層磨かれていたのだ。
   
   世の中での闘いで最も価値のある武器とは論理的な思考能力だ、と今回のような初歩的な課題でも改めて実感しつつ、平均的な日本人よりもやや良質の遺伝子を授けてくれた我が両親に感謝した。
   
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読後感

節水トイレの話、大変面白く読ませてもらいました。

トイレの詰まりは海外でよく経験。水量不足・イレットペーパの詰まり・子供の使いすぎ、等々。バキュームカップは必需品でしたので、新しい家(豊田の昔の家でもよく詰まりました、子供のトイレットペーパ使いすぎ)ではタンク型ではなく直結型。スペースも取らず、広さも快適で一度も詰まりません。

石松さんのケースは使用量も少なく、節水型など必要ないでしょう。新しくする時は直結型、全て自動が良かったのにと思いました。
 
大と小の繋ぎが間違っていたのが原因との事。過去詰まった事のない人には疑うべくもありませんね。ひょっとして私なら気がついたかも。大と小の水量、時間(流れる長さ)はチェックポイントに入っています。経験者なら、貯水タンクも自分で分解しています。ご苦労様。

ついでに蛇足。

豊田は今頃やっと直接下水溝に流せるようになってきていますが、私の故郷福井市では60年も昔から下水溝が出来ていて、直接流していました。豊田市の色々な所に文化の遅れが・・・。自動車を作ることのみに、その他の事はあまり考えていない気が昔からしておりました。

よきお殿様の文化が無いからこのようなところにも、現れてくるのでしょうね。豊田で育てられた私達、悪くは言いたく有りませんが・・・。

@ トヨタ後輩・工・ゴルフ仲間・元海外駐在員

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粘り強い5現主義が問題解決の基本、と先人から教わったことがあります。まさに石松様そのものですね。

5現主義とは弊社の古畑社長〔京三電機〕が良くおっしゃってたものです、現場・現物・現実・原理・原則の5ヶだそうです。

A ゴルフ仲間・昨年外科手術し、寛解した筈の大腸がんが他臓器へ転移 ⇒ 3/9手術予定。寛解を祈念しつつ・・・。

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「初歩的なミス」+「・・・するはずがない、という思い込み」が原因でトラブル解決まで時間を要したようですね。今後の参考になる出来事です。自分も気をつけなくてはいけないと思いました。

ところで、我が家で以前発生したトイレ排水詰まりについてお知らせします。

流れが時々悪くなり、石松さん同様スポイトでシュパシュパやってしのいでいました。いよいよ調子が悪くなり、タウンページにあった排水詰まり専門のサービス会社に電話をして来てもらいました。敷地内を走っている配水管の詰まりとわかりました。

隣家が境界に沿ってコニファを植えていて、その根が越境してきて、枡と配水管の接続部のわずかな隙間から配管内に侵入。どんどん成長して流れを阻害していたことが判明しました。根を切り流れるようになりましたが、隣家に樹木の撤去を申し入れる勇気はなく、根がまた侵入してくる可能性はあります。

こうした例もあるということでご理解頂ければと思います。

B 一級建築士・未だお会いした事も無い方・NHKニュースの背景に出てくる高層ビル街の右端に現れるエンパイヤステートピルに似た建物の設計総責任者

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「節水トイレの盲点」を拝読。腑に落ちないことは追求しなければならぬことを教わりました。

私もちょうど一年前に節水トイレに変更しました。当市に下水道が完備され、下水費用を水道水の使用量に上乗せして徴収されるため水道水代が跳ね上がったのがきっかけです。

従来のトイレの大便時の排水量は13リットル、節水トイレは6リットル。TOTOのリモデルトイレを選びました。宣伝文句は「従来モデルから換えても工事不要」です。

リモデルトイレ(節水トイレ)は少量の水で汚物を流すために水流を旋回させ効率の良い位置に落とし込むように工夫されています。そのため、排水口位置が従来便器より後方へ10数センチ移動されたようです。排水口位置を変えると床工事が大掛かりになるので「排水アジャスター」と称するL字型のジョイントパイプを追加します。つまり、流路の曲がり角が2ヶ所増えるわけです。

節水トイレであるから水量が少ないだけに曲がり角で排水つまりがおき易くないか問い合わせたが、その心配はないとの回答。しかし、排水つまりが発生した時の被害者は私だからと、床工事で排水口位置をずらせました。

ここまでしなくても良かったかもしれませんが、安全策を選びました。(今考えると、排水アジャスターの部品代を値引きしてもらうのを忘れました。)

C トヨタ職場先輩・工・ゴルフとテニスの仲間・囲碁はトヨタOBナンバーワンとの噂 ⇒ 流石は先手必勝の読みが深い!!

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商品は製造ラインを離れて、据付業者・修理業者などの人手を介する時は思わぬミスが発生するケースが稀にあるものですね!

我が家での体験(H19年秋):

I社のシャワートイレ、設置して7年程経過し順調でした。便器のコーティング(汚れが付きにくくなる塗布)の更新をメーカの出先に依頼したら業者が来て分解して塗布作業を実施。

その後、シャワーの強さを「弱」で使用すると調子が悪くなった(強、中、弱の3段階)のでメーカに電話。メーカより点検に来宅し修理完了した(原因を聞くと:コーティング作業した人に組立時にミスがありました・・・とのこと)。それ以後順調です。

D ゴルフ仲間・抜群の飛距離にいつも驚愕

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こんにちは、今回はトイレのトラブル体験談を読ませていただきありがとうごじました。

幸い私のところは17年前に改築した時には下水道が完通してましたので温水便座付きの便器に変更し、繋いでもらいました。もう年数が古い便器ですが、大・小の区分レバーは付いています。節水式ではありませんので詰まり現象は起きてません。

トラブル時の交渉がいかに大切かを知り得て有難く感謝しています。

E 奥様に先立たれたものの、中小企業の経営コンサルタントとして七面法被で活躍中

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